鳥刺しとりさし
清元 本名題『祇園町一力の段』(ぎおんまちいちりきのだん) 三枡屋二三治 作(原典の記載による) 作曲者・初演年不詳

京の祇園の茶屋に鳥刺しが現れる、鳥尽くしの滑稽な小品。題の「祇園町一力の段」は『仮名手本忠臣蔵』七段目の祇園一力茶屋の場をもじったものと見られる。「差すは盃、初会の客よ」と盃の「さす」から、鳥黐竿で小鳥を「刺す」鳥刺しに移り、「刺いてくりょう」の囃子、鶸・小雀・四十雀・瑠璃の鳥尽くし、稲叢を狙って鳥に逃げられるおかしみ、捨て鉢に弾く三味線の二上り三下り、四条五条の夕涼みから朝帰りの烏、目白・鶺鴒・雲雀・葦切・顔鳥・駒鳥の地口、都々逸の忍び逢いへと運ぶ。後半の鳥の名の地口は、当ライブラリの吉原雀(清元)と重なる。原典の本文は「噂されたを評判に幸ひ」と句の途中で終わっている。仮名書きの多い『柏葉集』の本文に漢字を当てた。
あらすじ
初会の客に差すのは盃、こちらが刺すのは小鳥。鳥黐竿を構えて「刺いてくりょう、刺いてくりょう」、刺したら子供に羽をやろう、鶸や小雀や四十雀、瑠璃は見事な錦の鳥。稲叢を的に狙いを定め、きょろきょろと手足を伸ばして取ろうとすると、鳥はずいと逃げてしまう。途方に暮れ、捨て鉢に三味線を弾けば、気も二上り三下り。酒の酔い心で四条五条の夕涼み、芸子や太鼓持ちを連れた客の朝帰りに烏がかあかあ。目白・鶺鴒・雲雀・葦切・顔鳥・駒鳥と鳥の名を地口にして色事をうたい、紺の手拭で顔を隠して忍んでくるあいつの咳払い——原典はここで途切れている。
詞章と現代語訳
さすぞへ、差すは盃初会の客よ、手には取れども初心顔
さすぞえ、差すのは盃、初会の客よ。手には取るけれど、初心な顔。
こちが刺すのは小鳥、さしのかぬ中ゆゑ、鳥黐竿のもちこいて、しめたぞしめた、ヲツトどつこい、此処らが秘密の魂胆か
こちらが刺すのは小鳥。「さしのかぬ」仲ゆえ、鳥黐竿の黐をこいて——しめたぞ、しめた。おっと、どっこい、ここらが秘密の魂胆か。
さいてくりよ、さいてくりよ
刺いてくりょう、刺いてくりょう。
これ物にかんまへて、まつこれ物にかんまへて、ちよつとさいてぐれうか、さいたら子供に羽やろか、鶸や小雀や四十雀、瑠璃は見事な錦鳥
「これ、物に構えて」「まず、これ物に構えて、ちょっと刺いてくりょうか。刺いたら子供に羽をやろうか」。鶸や小雀や四十雀、瑠璃は見事な錦の鳥。
こいつは妙々奇妙鳥類、何でもござねぶつは側で禁物と、目当違はぬ稲叢を、狙ひの的と、ためつすがのついでや、手並を一トさしと
こいつは妙々、奇妙鳥類。何でもござれ、念仏はそばでは禁物と、目当て違わぬ稲叢を狙いの的に、ためつすがめつ——ついでに手並みをひと刺しと。
一散走りに向ふを見て、きよろ付き眼あちこちと、鳥指竿も其侭に、手足伸ばして取らんとすれば、鳥はどこへかずいとく寺
一散走りに向こうを見て、きょろつく眼をあちこちと。鳥刺し竿もそのままに、手足を伸ばして取ろうとすれば、鳥はどこへか、ずいと行く——瑞徳寺。
思案途方に立止まり、シタリ、心太ではなけれども、突出されてもじぷんもの、これじやゆかぬと捨鉢に、後はどふなれ弾く三味線の
思案に暮れ、途方に暮れて立ち止まり——しまった。心太ではないけれど、突き出されても「じぷんもの」。これではいかぬと捨て鉢に、あとはどうなれと弾く三味線の。
気も二上り三下り
気も二上り、三下りと浮き沈み。
浮いてきたきた来たさのさけの酔ひ心、四条五条の夕涼み、芸子太鼓を引つれて、上から下へ幾度も、豊かな客の朝帰り、カアカアカア
浮いてきた、きた、来たさの、酒の酔い心。四条五条の夕涼み、芸子に太鼓持ちを引き連れて、上から下へ幾度も——豊かな客の朝帰り。かあ、かあ、かあ。
烏鳴きさへエヽ、うまいやつめとなふりおかめから、そこらの目白が見つけたら、さぞ鶺鴒であらふのに
烏の鳴き声さえ、ええ、「うまいやつめ」と——「なふりおかめから」——そこらの目白が見つけたら、さぞや鶺鴒(せり合い)であろうに。
日柄雲雀の約束は、いつも葦切顔鳥見たさ
日柄(日雀)よく雲雀の約束は、いつも「よし」と切り上げ(葦切)、顔(顔鳥)を見たさ。
文にもくどう駒鳥の、その返す書返り事なぞ、とくときで仕かけたら、たまつた色ではないかいな
文にもくどくどと、こまごま(駒鳥)の、その返し書き、返り事など——「とくときで」仕掛けたら、たまった色ではないかいな。
その時あいつか口癖に、どゝいつ文句も古めいた
その時あいつの口癖に、都々逸の文句も古めいた。
晩に忍べと言ふたゆゑ、紺の手拭で顔隠し、いつもあいつの咳払い、ハツクサミ、噂されたを評判に、幸ひ
「晩に忍べ」と言うたゆえ、紺の手拭で顔を隠し、いつものあいつの咳払い。はっくさめ——噂されたのを評判に、幸い……(原典はここで終わっている)
この曲は詞章の出典が他の清元と異なる。国書刊行会『徳川文芸類聚』第九 俗曲上所収『柏葉集』の本文(著作権消滅)による。目次・本文の題名は『祇園町一力の段(鳥さし)』。原典に「作者 三枡屋二三治」とある。
原典は仮名書きが多いので、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。原典が漢字で書いている字はそのまま残した。
原典の本文は「噂されたを評判に幸ひ」と句の途中で終わっており、続きがあるかどうかは確かめられない。欠けた部分は補っていない。
原典の〔三十郎出〕は役者の出を示す注記なので、本文には入れなかった。
鳥刺しは、先に鳥黐を塗った長い竿で小鳥を捕る者。「刺いてくりょう」は鳥刺しの踊りの囃子の文句と見た。「差す」(盃)と「刺す」(鳥刺し)を掛けて起こす。
後半は鳥の名の地口が続く。奇妙鳥類(帰命頂礼のもじりか)・目白・鶺鴒(せり合い)・日雀(日柄)・雲雀・葦切(よし切り)・顔鳥(顔)・駒鳥(こまごま)。目白から駒鳥までの続きは、当ライブラリの吉原雀(清元)の後半とよく似ている。「ずいとく寺」は「ずいと行く」に寺の名を掛けたか。「心太ではなけれども突き出され」は、心太を突き出す道具に掛ける。
繰り返し記号は、直前の語句を繰り返すものとして展開した(きた/\、カア/\/\)。どこまでを一語と見るかはこちらの判断による。
原典の用字「かんまへて」「ぐれうか」「あいつか」(あいつが)、「ハツクサミ」はそのまま残した。
語義や切り方を定めがたい箇所は原典のまま残した。「さしのかぬ中」、「もちこいて」(黐をしごいての意か)、「何でもござねぶつは」(「何でもござれ、念仏は」の意と見たが、切り方を断じきれない)、「ためつすがのついでや」、「じぷんもの」、「来たさのさけの」(囃子の「さのさ」に「酒の」を重ねたか)、「うまいやつめとなふりおかめから」、「とくときで」。
流儀・稽古本によって仮名遣いや字句に異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。