藤舎の紋 藤舎名玄TOSHA MEIGEN ― 詞章ライブラリーへ戻る
長唄

雪の夜ゆきのよる

原典に「松風述」とあるのみ  作詞者・作曲者・初演年不詳  原典の題名「ゆきの夜」

雪の夜 初版_暗い座敷
初版_暗い座敷

降る雪に積もった思いが解けて逢う夜の嬉しさ。「松」という名に「待つ」を掛け、つらい勤めも主を心の力に耐えると結ぶ、ごく短い座敷唄。他の曲と異なり『徳川文芸類聚』所収の『歌撰集』による。

あらすじ

降る雪に積もった思いの数々が、雪の解けるように解けて逢う夜。その嬉しさは、何から先に言えばよいのか。松——待つとは告げまい。あの子の名が松だというのに。憂いもの、つらいもの。憂いのは待つこと、松であること。憂いもの、つらいもの——そのつらい勤めも気持ちひとつで耐え、主を心の力として、忘れ草とするのだ。

詞章と現代語訳

ゆき

降る雪に。

〔上〕

もるおもひの数々かずかず

積もりに積もった思いの数々を。

〔下〕

けてうれしさは、なにからさきのひとつ

雪が解けるように打ち解けて逢う、この夜の嬉しさは——何から先に言えばよいのやら。

〔ハル〕

まつつとげまい、あのをばまつ

松——待っていたとは告げまい。あの子の名が、よりにもよって松だというのに。

いものつらいもの

憂いもの、つらいもの。

雪の夜 格子戸の灯り
格子戸の灯り
〔ハル〕

いものまつはまつ

憂いのは待つこと、松であること。

いものつらいものつらい、つとめもでくふて、ぬしをちからわすぐさ

憂いもの、つらいもの、つらい——そのつらい勤めも気持ちひとつで持ちこたえて、主を心の力とし、憂さを忘れる草とするのだ。

この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『歌撰集』の本文(著作権消滅・原典の題名は「ゆきの夜」)により、繰り返し記号は読みやすく展開し、合方〔合〕の指示は省いた。

原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた箇所がある。

〔上〕〔下〕〔ハル〕は原典に記された節付けの指示。段の頭に置いて残した。

積もった雪が解けることに、うちとけて逢うことを掛ける。

「松」は女の名。「待つ」を掛ける。待つ身のつらさを、名そのものが背負っている趣向。

「気で食ふ」は気力で持ちこたえること。「忘れ草」は憂いを忘れさせるという草で、萱草をいう。

作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。