都鳥みやこどり
作詞者不詳

隅田川の都鳥に寄せて、川辺の逢瀬を描く小品。伊勢物語の東下りの故事を下敷きにしつつ、江戸の隅田川の夏の夜へと移してうたう。
あらすじ
隅田川を渡る船。伊勢物語の在原業平が都鳥に都の人の消息を尋ねた故事を踏まえ、恋しい人を待つ心をうたう。雨の晴れた夜の逢瀬、待乳山、翼を交わす契り、そして更けゆく水の音。明けがたの鐘に別れを惜しんで、短い夏の夜を恨んで結ぶ。
詞章と現代語訳
たより来る、船の内こそ床しけれ、君なつかしと都鳥、いくよかここに隅田川
便りを運んでくるその船の中こそ心ひかれる。恋しいあなたを慕って鳴く都鳥よ。幾夜をここ隅田川で過ごしたことだろう。
往来の人に名のみ問はれて
行き交う人に、ただ名ばかりを尋ねられて。
花の風、水にうかれて面白や
花を散らす風に誘われ、水に浮かれて漕ぎ出す——なんと心楽しいことよ。
河上遠く降る雨の、はれて逢ふ夜を待乳山、あふて嬉しきあれ見やしやんせ、翅かはしてぬるる夜は、いつしか更けて水の音
川上のはるか遠くに降る雨。それが晴れて、晴れて逢える夜を待つ——その待乳山。逢えた嬉しさに、ほらご覧なさいな。翼を交わすように寄り添って濡れる夜は、いつしか更けて、ただ水の音ばかり。
思ひ思ふて深見草、結びつ解いつ、乱れあふた夜もすがら、はや後朝の鐘の声
思いに思いを重ねて深見草——牡丹のように深く。結んでは解き、解いては結び、乱れあった夜どおしのあとに、もう後朝を告げる鐘の音が響く。
にくやこれなく明くる夏の夜
憎らしいこと。あっけなく明けてしまう夏の夜よ。
詞章は声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第二編 長唄集(明治四十二年刊・著作権消滅)所収の本文による。
「都鳥」は伊勢物語の東下りで、在原業平が隅田川の渡しで「名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと」と詠んだ故事による。ゆりかもめのこととされる。
「待乳山」は隅田川西岸の待乳山聖天。「待つ」を掛ける、この曲の眼目の一つ。
「深見草」は牡丹の異名。「深く思う」に掛ける。
「後朝」は共に一夜を過ごした男女が別れる朝。その鐘は別れを促す音。
流儀・稽古本によって仮名遣いや字句に異同がある。演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。