藤舎の紋 藤舎名玄TOSHA MEIGEN ― 詞章ライブラリーへ戻る
長唄

小鍛冶こかじ

劇神仙 述  本名題「姿花后雛形」

小鍛冶 夜の鍛冶場
夜の鍛冶場

能「小鍛冶」に基づく。刀工・三条小鍛冶宗近が稲荷明神の助けを得て名剣「小狐丸」を鍛え上げる。刀を打つ槌の音を写した合方が聞かせどころ。

あらすじ

稲荷山の灯明が明らかに照らすなか、心を磨く鍛冶の道。名剣・小狐丸として末代に名を残す。唐土の名剣は知らず、我が国の名工天国・天座・神息の鍛えた剣にも劣るまいと、神が相槌を務めて丁々と槌を振るう。「打つ」の語から砧、宇津の山、時雨と転じ、火加減・湯加減の秘伝、陰陽和合の焼刃渡しを経て、霜夜の月のように澄みわたる刀身が完成する。

詞章と現代語訳

稲荷山いなりやまみつの灯火ともしびあきらかに、こころみが鍛冶かぢみち小狐丸こぎつねまるすゑに、のこいちじる

稲荷山の三つの灯明が明らかに照らすなか、心を磨いて励む鍛冶の道。「小狐丸」として末の世まで残るその名の、なんと著しいことよ。

唐土もろこしつたく、龍泉りゆうせん太阿たいあはいざらず、もと鉄工てつこう天国あまくにあまくら神息しんそくが、国家鎮護こくかちんごつるぎにも、まさりはするともおとらじと

そもそも唐土に伝え聞く名剣・龍泉や太阿はいざ知らず。我が日本の名工——天国、天座、神息が鍛えた国家鎮護の剣にも、勝りこそすれ劣るまいと。

〔鍛冶の合方〕

かみちから相槌あひづちを、つや丁々ちやうちやうしつていころり、余所よそくさへいさましき

神の力を借りての相槌。打つや丁々、しっていころりと響く槌の音。よそで聞いていてさえ勇ましいことよ。

つといふれは夜寒よさむ麻衣あさごろもとほきぬたおとへて、てやうつつの宇津うつやまひなみやこあきふけて、るや時雨しぐれ初紅葉はつもみぢこがるるいろ鉄坐かなくら

「打つ」といえば、夜寒に打つ麻衣。遠くの砧の音も添えて。打てや——「うつつ」から宇津の山へ。鄙も都も秋が更けて、降る時雨に染まる初紅葉。その焦がれるような色を、鉄床の上に。

火加減ひかげん湯加減ゆかげん秘密ひみつ大事だいじ焼刃渡やきばわたしは陰陽和合いんやうわがふつゆにもれて薄紅葉うすもみぢめていろ金色こんじきは、霜夜しもよつきみまさる、手柄てがらほどたぐひなき、清光せいくわうりんりんうつくしき、若手わかて業物わざもの切物きれものと、四方よもひびきけり

火加減、湯加減——秘伝の大事。焼刃を渡すのは陰陽の和合による。露に濡れた薄紅葉のように、染めるほど色を増す金色は、霜夜の月にもまさって澄みわたる。その手柄は比べるものもない。清らかな光がりんりんと美しく、若き名工の業物、切れ物として、四方にその名は響きわたったのであった。

詞章は声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第二編 長唄集(明治四十二年刊・著作権消滅)所収の本文により、繰り返し記号は読みやすく展開した。

〔 〕で括った段の名は、読みやすさのために補ったもの。原典にはない。

能「小鍛冶」に基づく。一条天皇の勅命を受けた三条小鍛冶宗近が、稲荷明神の化身を相槌として名剣を鍛える物語。

「小狐丸」は稲荷明神が狐の姿で助けたことによる剣の名。刀身の裏に「小狐」と銘を切ったという。

「龍泉」「太阿」はいずれも中国の名剣。「天国」「天座」「神息」は日本の伝説的な刀工。

「相槌」は刀を鍛えるとき、主の槌に合わせて打つ槌。ここでは稲荷明神がそれを務める。

「打つ」の語から砧・宇津の山へと転じる言葉の運びが、この曲の詞の要。「焼刃渡し」は焼き入れの工程。

作曲年・初演は原典に記載がない。流儀・稽古本によって字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。