藤舎の紋 藤舎名玄TOSHA MEIGEN ― 詞章ライブラリーへ戻る
長唄

五大力ごだいりき

作詞者・作曲者不詳

五大力 夜更けの文
夜更けの文

遊女が想い人に宛てた手紙の体裁をとる、めりやすの小品。「五大力」は遊女が起請の証として持ち物に書いた五文字で、心変わりせぬ誓いを意味する。

あらすじ

いつまで草の名のように、いつまでも。中途半端に逢っては物思いばかり。たとえ堰かれて時を経ようとも、縁と時節の来るのを待とう。互いの心は打ち解けていても、表向きは解かぬ「五大力」の誓い。とはいえ、変わらぬそのお心のありがたさ。やがてお逢いして語りましょう——名残惜しいけれど筆をとどめます、かしく。

詞章と現代語訳

いつまでぐさのいつまでも、なまなかえて物思ものおも

「いつまで草」というその名のように、いつまでも。なまじお逢いするばかりに、かえって物思いが募ります。

仮令たとひかれてほどるとても、えん時節じせつすゑ

たとえ人に堰き止められて時が過ぎようとも、縁と時節のめぐってくる末を待ちましょう。

なんとしょ、たがひこころうちけて、表面うはべはとかぬ五大力ごだいりき

どうしましょう。互いの心は打ち解けていても、表向きには決して解かない——五大力の誓い。

さはりながら、かはいろなき御風情ごふぜいやがふぞへかたろぞへ、しきふでとめさふらふかしく

とはいえ、少しも色の変わらないそのお心のありがたさ。やがてお逢いしましょう、語り合いましょう。名残惜しくはありますが、ここで筆をとどめます。かしく。

詞章は声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第二編 長唄集(明治四十二年刊・著作権消滅)所収の本文による。

「五大力」は五大力菩薩に由来し、遊女が起請の証として櫛や煙管、手紙に記した五文字。心変わりしない誓いを表す。

「いつまで草」は岩に生えるシノブの異名。「いつまでも」を導く。

「めりやす」は歌舞伎で役者の無言の演技に添えて低く唄われる短い曲。[[黒髪]] と同じ種類にあたる。

末の「かしく」は女性が手紙の結びに添える言葉。全体が一通の恋文の体裁をとっている。[[可祝の柳]] も同じ言葉で結ぶ。

作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。